野球を愛する少年少女、そしてそれを支える指導者や保護者の皆さん、こんな経験はありませんか?
ボールを投げた時に肘の内側や外側が痛む、投げ終わった後にジンジンとした痛みが残る。それはもしかしたら「野球肘」かもしれません。
野球肘は、成長期の子どもたちに多く見られる肘の障害の総称です。
野球肘ってどんな状態?
野球肘は、投球動作によって肘に繰り返し負担がかかることで起こる様々な障害の総称です。一口に「野球肘」といっても、痛む場所や症状によっていくつかの種類があります。
肘の内側の痛み(内側型野球肘)
最も多く見られるタイプで、投球動作で肘の内側に強い引っ張り力がかかることで、骨や軟骨、靱帯に負担がかかり炎症や損傷が生じます。特に「リトルリーガー肘」と呼ばれる骨端線損傷(成長軟骨板の損傷)は、成長期の子どもに特有の注意すべき症状です。
肘の外側の痛み(外側型野球肘)
投球動作で肘の外側に圧迫やこすれる力がかかることで、骨や軟骨、靱帯に負担がかかり炎症や損傷が生じます。離断性骨軟骨炎(OCD)などが代表的で、進行すると軟骨が剥がれてしまうこともあります。
肘の後ろ側の痛み(後方型野球肘)
肘を伸ばしきる際に、骨同士がぶつかり合うことで起こる痛みです。
これらの障害は、放置すると慢性化したり、将来的なパフォーマンスに影響を及ぼしたりする可能性もあります。
なぜ野球肘になるの?
野球肘の原因は複合的ですが、主に以下の点が挙げられます。
投球フォームの問題
投げすぎ(オーバーユース)
短期間での球数の増加、連投、複数ポジションでの出場など、肘に回復する時間を与えない過度な投球。
不適切なフォーム
肘が下がったフォーム、手投げ、体全体を使わないフォームなどは、肘に大きな負担をかけます。
未熟なフォーム
成長途中の子どもは、まだ正しいフォームが身についていないことが多く、肘に負担がかかりやすいです。
筋力や柔軟性の不足
肩や体幹、下半身の筋力不足は、腕への負担を増大させます。また、肩や肘関節の柔軟性が低いと、投球時に無理な力がかかります。
体の成長期
成長期の子どもは、骨の端にある**骨端線(成長軟骨板)**が未完成で非常にデリケートです。大人よりも繰り返し加わる負荷に弱く、損傷しやすい特徴があります。
身体の酷使
野球以外のスポーツとの掛け持ちなど、全身の疲労が蓄積している場合も発症リスクが高まります。
指導や管理の問題
投球数の管理不足、体の状態を考慮しない指導なども原因となります。
自宅でできる野球肘の改善策と予防策
痛みが軽い初期段階であれば、自宅でのケアで症状を和らげ、悪化を防ぐことができます。
1. まずは「投げない」!安静とアイシング
肘に痛みを感じたら、まずは「投げない」ことが最も重要です。
痛みを我慢して投げ続けると、症状が悪化し、治るまでに時間がかかったり、後遺症が残ったりする可能性もあります。
炎症を抑えるために、痛む部分を15分程度アイシングするのも効果的です。直接氷を当てるのではなく、ビニール袋に入れた氷をタオルで包んで使用してください。
2. ストレッチと柔軟性の向上
肩や肘、体幹の柔軟性を高めることは、肘への負担を軽減し、正しい投球フォームを身につける上で非常に重要です。
- 肩甲骨のストレッチ
肩甲骨を大きく回したり、前後に動かしたりすることで、肩周りの柔軟性を高めます。 - 胸のストレッチ
壁に手をつき、胸を開くように体をひねることで、投球に必要な可動域を広げます。 - 前腕のストレッチ
肘を伸ばした状態で手首を上下に曲げ、前腕の筋肉をゆっくりと伸ばします。
3. 投球フォームの見直し
指導者や専門家と一緒に、現在の投球フォームを見直しましょう。手投げになっていないか、体全体を使って投げられているかなどを確認し、肘に負担の少ないフォームを習得することが予防にも繋がります。
4. 筋力トレーニング(痛みが引いてから)
痛みが完全に引いてから、体幹や下半身の強化、肩や腕周りの筋肉強化に取り組みましょう。全身のバランスの良い筋力は、投球時の衝撃を吸収し、肘への負担を分散させます。
- 体幹トレーニング
プランクなど体幹を安定させるトレーニング。 - 下半身トレーニング
スクワットなど下半身を強化するトレーニング。 - インナーマッスルトレーニング
肩の回旋筋群など、投球に必要な細かな筋肉を鍛えるトレーニング。
最後に
野球肘は、特に成長期の子どもにとって、その後の野球人生を左右する可能性のある重要な問題です。痛みを我慢せず、早期に適切な対処をすることが何よりも大切です。
もし肘に痛みを感じたら、我慢せずに整形外科を受診しましょう。
特に、野球肘に詳しいスポーツドクターの診察を受けることをおすすめします。専門家による正確な診断と治療、そして指導によって、症状の悪化を防ぎ、安全に野球を続けることができるようになります。
未来ある選手たちが、野球を長く楽しく続けられるように、周囲の大人も協力して肘の健康を守っていきましょう。
コメント