「腰が痛い時は安静にするべき」——これはかつての常識でした。
しかし、現在の腰痛の診療ガイドラインでは、「安静よりも可能な範囲で活動を維持した方が予後が良い」と強く推奨されています。
長期間の安静は、かえって痛みを長引かせ、腰痛を「癖」にしてしまう、つまり慢性化のリスクを高めることがわかっています。
とはいえ、「痛いのに、なんでもかんでも動けばいいのか?」というと、それは違います。
今回は、腰が痛む時に負担を最小限に抑え、腰痛を悪化させないための、日常生活における安全な動作をご紹介します。
1. なぜ「安静」は腰痛を慢性化させるのか?
腰痛のガイドラインが安静よりも活動を推奨する理由は、以下の通りです。
筋力低下の加速
安静にしていると、腰を支える腹筋や背筋、インナーマッスル(体幹)の筋力が急速に低下します。その結果、次に動いたときに腰への負担が増大し、痛みがぶり返しやすくなります。
血行不良と治癒の遅れ
動かないことで患部周辺の血流が悪くなり、痛みの原因物質が滞留し、組織の修復(治癒)が遅れる可能性があります。
恐怖感(キネシオフォビア)の増大
痛みへの恐怖から体を動かさなくなり、神経系が過敏になってしまうことで、慢性的な痛みにつながります。
大切な原則
痛みが強くない限り、「動ける範囲で、普段通りの生活を維持する」ことが、早期回復への近道です。
2. 腰が痛い時の「負担最小限」の動き方
動くことが大切でも、腰に負担をかける動作は避けなければなりません。特に腰椎(腰の骨)をひねったり、大きく曲げたりする動作は危険です。
| シーン | 安全な動き方(推奨) | NGな動き方(注意) | 
| 🛏️ 起き上がる | 【横向き経由】 膝を曲げ、体を横向きにして、腕の力で上半身を押し上げながら、ゆっくりと立ち上がる。 | 仰向けのまま、腹筋の力だけで勢いよく上体を起こす。 | 
| 👟 物を拾う | 【股関節と膝を使う】 拾う物に近づき、膝と股関節を曲げて(スクワットやランジのように)、腰を丸めずに背筋を伸ばしたまま拾う。 | 膝を伸ばしたまま、腰だけを深く曲げてかがみ込む(腰椎を丸める)。 | 
| 🧺 立ち上がる | 【足と体幹を使う】 椅子に深く座らず、足を少し引いて、足裏全体で床を押すようにして立ち上がる。手で太ももを押して補助しても良い。 | 膝をほとんど曲げずに、腰の反動や力に頼って勢いよく立ち上がる。 | 
| 🧼 顔を洗う | 【片膝立ちや手で支える】 洗面台に寄りかかり、片方の肘や手で洗面台を支えながら行う。または、片膝を軽く曲げ、お辞儀の角度を浅く保つ。 | 膝を伸ばしたまま、長時間腰を前に深く丸めて前傾姿勢を保つ。 | 
| 🔄 寝返りを打つ | 【膝と腕の連動】 膝を立て、腹筋に軽く力を入れ、膝の重みで先に下半身を回転させ、それに合わせて上半身を動かす。 | 腰の力だけで、上体と下体をバラバラにひねって動かす。 | 
3. 動く際の確認事項と注意点
「動く」ことが推奨されますが、以下の症状がある場合は、いったん動きを控え、医療機関を受診してください。
- 痛みが非常に強い
激痛で動けない場合や、安静にしても痛みが引かない場合。 - 脚に症状がある
足先やふくらはぎにしびれや麻痺がある、または痛みが増している場合(坐骨神経痛の悪化の可能性)。 - 発熱がある
腰痛とともに発熱がある場合。 
動くときの自己チェック:
- 痛みが少しでも楽になる動作か?
 - 無理なひねりや急な動きをしていないか?
 - 呼吸を止めずに行っているか?
 
これらの安全な動作を取り入れることで、腰痛の回復を促し、痛みの慢性化を防ぐことにつながります。
  
  
  
  

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