運動会のかけっこ、部活動のダッシュ、草野球での全力疾走…。
「よし、行くぞ!」と力を入れたその瞬間、太ももの裏に「ブチッ」という嫌な感触と激しい痛み。
それは、多くのアスリートやスポーツ愛好家が経験する悪夢、ハムストリングスの肉離れかもしれません。
今回は、かけっこ中に起こりやすいハムストリングスの肉離れについて、その原因から応急処置、そして安全な復帰へのステップまでを詳しく解説します。
ハムストリングスってどこ? なぜ肉離れしやすいの?
ハムストリングスとは、太ももの裏側にある大きな3つの筋肉(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)の総称です。これらの筋肉は、膝を曲げたり、股関節を伸ばしたりする際に重要な役割を担っています。
かけっこやダッシュなど、全力で走る動作では、このハムストリングスが急激に収縮・伸張を繰り返します。
特に、以下の状況で肉離れを起こしやすくなります。
加速時や最高速度に達した時
筋肉が最も強く収縮するタイミングです。
急な方向転換や減速時
筋肉に強い負荷がかかります。
地面を強く蹴り出す瞬間
筋肉が伸ばされながら力を発揮する「エキセントリック収縮」が起こり、損傷しやすい状態になります。
肉離れかも? その症状と応急処置
ハムストリングスの肉離れは、その程度によって症状が異なります。
軽度(I度)
筋肉の繊維がわずかに損傷した状態。軽い痛みや張りを感じる程度で、歩行は可能。
中等度(II度)
筋肉の繊維の一部が断裂した状態。強い痛みがあり、歩行が困難になることも。内出血や腫れが見られる場合も。
重度(III度)
筋肉が完全に断裂した状態。激しい痛みで全く動かせず、陥没が触れることも。内出血や腫れが顕著です。
もし肉離れが疑われる場合は、すぐにRICE(ライス)処置を行いましょう。
Rest (安静)
すぐに運動を中止し、患部を動かさないように安静にします。無理に動かすと、損傷が悪化する可能性があります。
Ice (冷却)
氷のうやビニール袋に入れた氷をタオルで包み、患部を冷やします。15~20分程度冷やし、患部の感覚がなくなったら外し、再び痛みが出てきたら冷やす、というのを繰り返します。炎症と腫れを抑える効果があります。
Compression (圧迫)
弾性包帯やテーピングで患部を軽く圧迫します。腫れを抑え、内出血の広がりを防ぎます。ただし、締め付けすぎると血流が悪くなるので注意が必要です。
Elevation (挙上)
患部を心臓より高い位置に保ちます。クッションなどに足を乗せて寝るなどして、腫れを軽減させます。
迷わず医療機関を受診!
RICE処置はあくまで応急処置です。自己判断で済ませず、必ず整形外科を受診しましょう。医師による正確な診断(MRIなどで損傷の程度を確認する場合もあります)を受け、適切な治療方針を立てることが、早期回復と後遺症を残さないための最も重要なステップです。
復帰への道のりは焦らず段階的に
ハムストリングスの肉離れは再発しやすい怪我として知られています。焦って復帰すると再発のリスクが高まるため、以下のステップを踏んで慎重に進めましょう。
急性期(炎症期)
目的
痛みと炎症を抑える、患部を安静にする。
内容
RICE処置、医師の指示に従った固定や内服薬の服用。
期間
数日〜1週間程度。
回復期(リハビリ開始)
目的
痛みのない範囲で可動域を広げ、筋力回復を図る。
内容
- 軽負荷のストレッチ
痛みのない範囲で、ハムストリングスをゆっくりと伸ばすストレッチから開始します。 - アイソメトリック運動
筋肉を収縮させるが関節は動かさない運動。初期の筋力回復に有効です。 - 軽い筋力トレーニング
抵抗の少ないチューブトレーニングや自重トレーニングから始め、徐々に負荷を上げていきます。 - 有酸素運動
水中ウォーキングや自転車エルゴメーターなど、患部に負担の少ない運動で全身の運動能力を維持します。
期間
数週間〜数ヶ月。理学療法士の指導を受けることが非常に重要です。
競技復帰期
目的
スポーツ動作に必要な筋力、パワー、柔軟性、協調性を回復させる。
内容
- ジョギングから段階的に走行
まずはウォーキングから始め、痛みがなければジョギング、そして徐々にスピードを上げてダッシュへと移行します。 - アジリティートレーニング
方向転換や急停止などの動きを取り入れます。 - スポーツ特有の動作練習
軽くキックしたり、シュート練習をしたりと、実際の競技動作をゆっくりと再開します。 - 再発予防の強化
肉離れを起こしやすい筋肉の強化と柔軟性維持を徹底します。
期間
数ヶ月。完全に痛みがなく、全力で動けることを確認してから競技に復帰します。
再発予防が何よりも大切!
一度肉離れを起こすと、再発のリスクが高まります。予防のためには、以下の点を日頃から意識しましょう。
十分なウォーミングアップとクールダウン
運動前には心拍数を上げ、筋肉を温めるウォーミングアップを。運動後には、硬くなった筋肉をゆっくりと伸ばすクールダウンを欠かさず行いましょう。
ハムストリングスの柔軟性向上
日頃からハムストリングスのストレッチを習慣にしましょう。立ったまま前屈、仰向けで片足上げなど、無理のない範囲で行います。
お尻や体幹の筋力強化
ハムストリングスだけでなく、股関節の動きに関わるお尻(臀筋群)や体幹の筋肉を強化することで、ハムストリングスへの負担を軽減できます。
筋肉のバランス
太ももの前側(大腿四頭筋)と裏側(ハムストリングス)の筋力バランスが悪いと肉離れのリスクが高まります。両方の筋肉をバランスよく鍛えましょう。
疲労管理と栄養・休養
疲労が蓄積すると筋肉は損傷しやすくなります。十分な睡眠とバランスの取れた食事で、体の回復を促しましょう。
まとめ
ハムストリングスの肉離れは、つらい怪我ですが、適切な処置と地道なリハビリ、そして日頃からの予防を徹底することで、再び全力で駆け出すことができます。
焦らず、ご自身の体を大切にしながら、スポーツを楽しんでくださいね!
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